皐月の季節のことば
「むかし をとこありけり」伊勢物語の書き出しである。
世の中に たえて桜のなかりせば春の心は のどけからまし
すばらしい歌よみで,生涯を狂わせてしまうような藤原高子(たかいこ)との恋。
失恋に傷つき東国を放浪しているとき
名にし負はば いざこととはむ都鳥
わが思う人は ありや なしやと
と詠む。
伊勢物語は業平と思われる男の短い章段からなる恋の見本のような一代記として編まれている。
桜の季節は終ってしまったけれど,趣は心を満たす春の宵。
恋の物語など繙(ひもと)くのも一興かと。
五月二十八日は,業平忌である。